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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)3487号 判決 1990年1月31日

原告

中村健人

被告

丹羽利之

主文

一  被告は、原告に対し、金五四一万八九二五円及び内金五〇一万八九二五円に対する昭和六〇年六月五日から、内金四〇万円に対する昭和六三年一一月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一四六六万五一一四円及び内金一三六六万五一一四円に対する昭和六〇年六月五日から、内金一〇〇万円に対する昭和六三年一一月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 事故発生日時 昭和六〇年六月五日午前八時二五分頃

(二) 場所 小牧市大字小牧二〇一五番地県道上交差点内(以下「本件交差点」という。)

(三) 被告車両 普通乗用自動車(名古屋五四り三九五〇)

(四) 右運転者 被告

(五) 原告車両 原動機付自転車(春日井を三四五三)

(六) 右運転者 原告

(七) 事故態様 原告が、原告車両を運転して信号機のある本件交差点に北方から青信号に従つて進入し、右折のため道路中央付近で停車していたところ、被告が被告車両を運転して南方より時速約六〇キロメートルで青信号に従つて本件交差点に進入し、原告車両左前部に被告車両右前部を衝突させた(以下「本件事故」という。別紙現場見取図参照)。

2  被告の責任原因

本件事故は、被告が制限速度時速三〇キロメートルの現場道路を時速約六〇キロメートルの高速で疾走し、かつ、前方不注視のまま本件交差点に進入したことによつて発生したものであり、被告は民法七〇九条の不法行為に基づく損害賠償義務を負うとともに、被告は、被告車両を自己のため運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づく損害賠償義務を負う。

3  原告の受傷及び治療状況

(一) 原告は、本件事故により両下腿骨開放性骨折、頭部、頸部、胸部、両下肢挫傷の傷害を負い、次のとおり、小牧第一病院において入通院を余儀なくされた。

入院 昭和六〇年六月五日から同年九月七日(九五日間)

昭和六一年二月三日から同年二月一三日(一一日間)

合計一〇六日間

通院 昭和六〇年九月八日から昭和六一年二月二日(一四八日間)

昭和六一年二月一四日から昭和六二年六月二六日(三七八日間)

合計五二六日間

内実治療日数二二五日間

(二) 後遺障害

原告の右傷害は完治せず、左足首が曲がりにくく、歩きにくい、しやがむ姿勢を続けると右足がしびれて動かなくなる、正座は三分間位で痛みのため耐えられなくなる等の症状を残し、昭和六二年六月二六日に固定した。原告が、右後遺障害につき、自賠責調査事務所の事前認定を受けたところ、昭和六二年九月九日、一二級七号と認定された。

4  損害

(一) 治療費等

装具 五万七九五〇円

診断書 二万一五〇〇円

治療費、差額ベツト代 二二万六三三〇円

(二) 付添看護費

昭和六〇年六月五日から同年六月二七日(二三日間)母親

四〇〇〇円×二三日=九万二〇〇〇円

昭和六〇年六月二八日から同年七月二七日(三〇日間)

家政婦 三一万九八五〇円

合計 四一万一八五〇円

(三) 入院雑費 一〇万六〇〇〇円

一〇〇〇円×一〇六日=一〇万六〇〇〇円

(四) 通院交通費 二万二五〇〇円

一〇〇円×二二五日=二万二五〇〇円

(五) 休業損害 一七一万七三〇五円

昭和六〇年六月五日から昭和六一年四月一日(三〇一日間)

原告の昭和五九年の収入 一か月平均 一七万一一六〇円

三〇一日÷三〇日×一七万一一六〇円=一七一万七三〇五円

(六) 傷害慰謝料 二〇〇万円

(七) 後遺障害逸失利益 八六三万〇二七九円

一二級七号として 労働能力喪失率一四パーセント

昭和六一年賃金センサス第一表男子学歴計 二五二万七二〇〇円

時点修正値 一・〇五

二二歳ホフマン係数 二三・二三一

二五二万七二〇〇円×一・〇五×〇・一四×二三・二三一=八六三万〇二七九円(円未満切捨)

仮に、事故当時の現実の収入を基礎とするとしても、将来の昇給分一六五万四九八七円をも逸失利益に算入されるべきである。

(八) 後遺障害慰謝料 二〇〇万円

(九) 弁護士費用 一〇〇万円

(一〇) 損害填補

保険会社より 四〇万円

労災保険より 一一二万八六〇〇円

一一万八八〇〇円×九+五万九四〇〇円=一一二万八六〇〇円

合計一五二万八六〇〇円

5  よつて、原告は、被告に対し、本件事故による損害金一四六六万五一一四円及び内金一三六六万五一一四円に対する本件事故の日である昭和六〇年六月五日から、内金一〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和六三年一一月一九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、事故態様を除いて認める。事故態様は否認する。

2  同2の事実のうち、被告が本件事故につき民法七〇九条及び自賠法三条の責任を負うことは認め、その余の事実は否認する。

3  同3(一)の事実は認める。

同3(二)の事実のうち、原告が事前認定により一二級七号の認定を受けたことは認め、その余の事実は知らない。

4  同4の事実(一)ないし(八)は否認し、(九)は知らず、(一〇)は認める。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故は、交差点を直進中の被告車両と反対方向から交差点に進入し、右折しようとした原告車両との間に発生した事故である。従つて、原告には、対向車である被告車両の走行を妨害することのないように注意する義務があつたところ、原告車両前方に清掃車があり、その荷台に隠れて対向車の状況が十分には見えない状態であつたにもかかわらず、対向車の確認を怠つたまま被告車両の直前を右折しようとしたため発生したものであるから、原告にも過失があり、過失相殺をなすべきである。

2  弁済

(一) 労災保険より

(1) 休業補償給付 八三万三一七〇円

(2) 診療費 二三一万六〇八八円

(3) 療養給付 一万八三四〇円

(二) 自賠責保険より 四〇万円

(三) 被告の任意保険より

治療費

昭和六〇年九月一〇日 一一〇万九四九〇円

昭和六一年三月二〇日 二万五〇〇〇円

合計四七〇万二〇八八円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実のうち、(一)の一一二万八六〇〇円及び(二)は認め、その余の事実については明らかに争わない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  交通事故の発生及び被告の責任

1  請求原因1の(一)ないし(七)の事実及び同2の事実のうち、被告が本件事故につき民法七〇九条及び自賠法三条の責任を負うことは当事者間に争いがない。

2  事故態様

右争いのない事実、成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証、原告本人尋問の結果及び被告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は、南北に走る幅員六・六メートルの道路(制限速度時速三〇キロメートル)と東西に走る幅員六・〇メートルの道路が交差する信号機による交通整理の行われている交差点内である。

(二)  原告は、本件事故前、原告車両を運転し、本件交差点の北約八〇〇メートル手前から、自車の前方を時速約二〇キロメートルの速度で走行する清掃車に、約二メートルの車間距離を保ちながら追従して走行していた。そのため、清掃車に前方の視界を遮られ、前方の見通しは極めて悪かつた。

(三)  原告は、青信号に従い、清掃車に追従して北方から本件交差点に進入し、右折をするべく殆ど停止しうる位の速度に減速し、衝突地点の約一メートル手前で左足を地面に付け、左足で地面を蹴つて、本件交差点に表示されたセンターマーク(本件交差点の中央よりやや西側にずれて表示されている。)付近に停止するべく約一メートル程前進した。原告は、右のようにして約一メートル程前進する間に、対向車線上に被告車両が時速五〇キロメートル位の速度で本件交差点へ進入してくるのを発見した。

(四)  被告は、被告車両を運転し、直進するべく、時速五〇キロメートル位の速度で、青信号に従い、南方から本件交差点へ進入する際、本件交差点手前の横断歩道にさしかかつた辺りで清掃車とすれちがい、同時に清掃車の後方、本件交差点の南側入口付近をゆつくりと走行していた原告車両を初めて発見し、危険を感じてブレーキをかけたが間に合わず原告車両に衝突した。衝突地点は、原告車両の走行車線上でかつ本件交差点の中心よりやや北側の地点であつた。

3  以上から、被告は、民法七〇九条及び自賠法三条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

二  原告の受傷及び治療状況

1  原告が、本件事故により両下腿骨開放性骨折、頭部、頸部、胸部、両下肢挫傷の傷害を負い、事故当日の昭和六〇年六月五日から昭和六二年二月二六日までの間、請求の原因3(一)記載のとおり入院日数一〇六日間、通院期間五二六日間(内実日数二二五日間)の入通院治療を受けたことは、当事者間に争いがない。

2  原告が、自賠責調査事務所の事前認定を受けたところ、一二級七号と認定されたことは、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告の右傷害は完治せず、左足首が曲がりにくく、歩きにくい、しやがむ姿勢を続けると右足がしびれて動かなくなる、正座は三分間位で痛みのため耐えられなくなる等の症状を残し、昭和六二年六月二六日に固定したことが認められる。

以上の事実によれば、原告の本件事故による後遺障害については、自賠法施行令別表の後遺障害別等級表第一二級七号に該当するとみるのが相当である。

三  損害

1  治療費等

(一)  装具 五万七九五〇円

成立に争いのない甲第二号証の七及び弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に作成されたものであることが認められる甲第六号証によれば、原告は、本件事故による受傷のため、左短下肢装具及びA両側支柱の装用を必要としたこと、右装具代として五万七九五〇円を要したことを認めることができる。

(二)  診断書 二万一五〇〇円

成立に争いのない甲第五号証の一ないし七によれば、原告は、本件事故による受傷に関し、医師の診断書料として二万一五〇〇円を要したことを認めることができる。

(三)  治療費 一九三万二一九八円

原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証の一ないし五によれば原告は、本件事故による受傷のため、入通院治療費(差額ベツト代を除く。)として合計一九三万二一九八円を要したことを認めることができる。

(四)  差額ベツト代 二七万円

前掲甲第三号証の一ないし五、成立に争いのない甲第五号証の一〇ないし一四によれば、原告は、昭和六〇年六月五日から同年九月七日まで、昭和六一年二月三日から同年二月一三日までの一〇六日間の入院期間中、差額ベツト代 (日額四五〇〇円)合計四七万七〇〇〇円を支出したことが認められるが、このうち、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証の一ないし五によつて認められる原告の傷害の部位・程度、治療内容、後記2に認定した付添看護の必要性が認められる期間に照らすと、事故当日である昭和六〇年六月五日から二か月に限り、差額ベツトを使用する必要性が存したものと認められる。

四五〇〇円×六〇日=二七万円

2  付添看護費 四〇万〇三五〇円

前掲甲第二号証の一及び二、弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に作成されたものであることが認められる甲第七号証の一ないし八、証人中村芳恵の証言並びに弁論の全趣旨によれば、医師は昭和六〇年六月五日から同年六月三〇日まで原告の付添看護の必要性を認めたこと、しかし、原告は同年七月一日以降も一人では歩けず、身動きも不自由な状態が継続し、同年七月末頃、ようやくベツトから一人で降りられるようになつたこと、昭和六〇年六月五日から同年六月二七日(二三日間)まで原告の母親である中村芳恵が原告の付添看護に当たつたこと、昭和六〇年六月二八日から同年七月二七日まで家政婦大河内あやに原告の付添看護を依頼し、家政婦日当等合計三一万九八五〇円を支出したことを認めることができる。前記二で判示した原告の受傷部位、右に認定した原告の症状等から原告には昭和六〇年六月五日から同年七月二七日(五七日間)まで付添看護の必要性が存したことが認められる。そして、母親の付添費用は八万〇五〇〇円(一日三五〇〇円、二三日分)と認めるのが相当であり、これに家政婦日当等として支出した三一万九八五〇円を加えた四〇万〇三五〇円が本件事故による損害というべきである。

3  入院雑費 一〇万六〇〇〇円

前記認定のとおり原告の入院日数は一〇六日であり、弁論の全趣旨によれば入院雑費として少なくとも一日一〇〇〇円、計一〇万六〇〇〇円を支出したものと認められる。

4  通院交通費 二万二五〇〇円

証人中村芳恵の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、当初の退院一か月程は母親の運転する自動車を利用して通院し、その後は、天気の良い日にはリハビリを兼ねて徒歩で通院していたことが認められるところ、通院交通費として少なくとも二万二五〇〇円を要したと認めるのが相当である。

5  休業損害 一六九万三七八七円

弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に作成されたものであることが認められる甲第八号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故当時トヨタカローラ愛豊株式会社において自動車整備士として勤務し、本件事故前年の昭和五九年分の年収は二〇五万三九二八円であつたこと、原告は本件事故による受傷のため昭和六〇年六月五日から昭和六一年四月一日までの三〇一日間休業を余儀なくされたことが認められ、少なくとも計一六九万三七八七円の休業損害を被つたものと認められる。

二〇五万三九二八円÷三六五日×三〇一日=一六九万三七八七円(円未満切捨)

6  後遺障害逸失利益 七八九万七四〇四円

本件事故による原告の前記受傷が昭和六二年六月二六日症状固定(症状固定時満二二歳)し、その後遺症が自賠法施行令別表の後遺障害別等級表第一二級七号に該当するものであることは前記認定のとおりであるところ、それによる労働能力喪失率は一四パーセント、労働能力低下の継続期間は四五年とするのが相当である。そして、原告は、前記認定のとおり本件事故当時トヨタカローラ愛豊株式会社において自動車整備士として勤務し、本件事故前年の昭和五九年には二〇五万三九二八円の年収を得ていたが、原告は本件事故当時満二〇歳の若年であつたことを考慮し、症状固定時の昭和六二年賃金センサス第一表「企業規模計、男子労働者学歴計、二〇ないし二四歳」により、ホフマン式にて中間利息を控除して原告の逸失利益を算出すると、七八九万七四〇四円となる。

二五六万七五〇〇円×〇・一四×(二三・八三二二-一・八六一四)=七八九万七四〇四円

7  慰謝料 三八〇万円

前記認定の本件事故による原告の受傷内容及び程度、治療経過、後遺症の内容及びその程度その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば、原告が本件事故による受傷及び後遺症のため被つた精神的苦痛に対する慰謝料は三八〇万円が相当である。

8  小括

以上によれば、原告の受けた損害合計は一六二〇万一六八九円となる。

9  過失相殺

前記一2で認定した事実によれば、本件事故の発生については、原告においても、対向車である被告車両の走行を妨害することのないように注意する義務があつたところ、対向車の有無を十分に確認しないまま右折しようとした過失が認められるところ、前記認定の被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の前記損害額合計の四割を減ずるのが相当と認められる。そうとすると、原告の過失相殺後の損害額は九七二万一〇一三円(円未満切捨)となる。

10  損害の填補 四七〇万二〇八八円

請求の原因4(一〇)の事実は当事者間に争いがない。原告が本件事故による損害の填補として労災保険、自賠責保険及び被告加入の任意保険から合計四七〇万二〇八八円を受領したこと(抗弁2)は被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

よつて、原告の前記過失相殺後の損害額から右填補分を差し引くと、残損害額は五〇一万八九二五円となる。

11  弁護士費用 四〇万円

原告が本訴の提起追行を弁護士に委任していることは明らかであるから、事案の難易、請求額、認容額等を考慮すると、四〇万円の限度で本件事故との相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

四  結論

以上の次第であるから、原告の本件請求は、五四一万八九二五円の損害賠償金及び内金五〇一万八九二五円に対する本件事故発生の日である昭和六〇年六月五日から、内金四〇万円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和六三年一一月一九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 深見玲子)

別紙 <省略>

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